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busa machimura

   集英社  1,600円+税
   2017年9月30日 第1刷発行

 著者の今野敏は、北海道三笠市生まれで、高校教師だった父親の転勤で岩見沢市、江差町で育ち、函館ラ・サール高校、上智大学文学部新聞学科卒業。大学では空手に傾倒し、1999年からは空手道今野塾を主宰するなどし、沖縄空手を題材にした小説を多数世に問うています。
 氏の「琉球空手シリーズ」はこれまでに、「義珍の拳」(2005)、「武士猿(ブサーザールー)」(2009)、「チャンミーグヮー」(2014)を読んできています。

 さて、「武士マチムラ」。琉球空手シリーズ第4弾の位置づけとなるもので、空手家・今野敏の面目躍如たる労作となっています。
 1829年、沖縄の泊村で生まれた松茂良興作(まつもらこうさく、幼名・樽金)は、沖縄の武術「手(ティー)」に魅了され、薩摩の支配下で沖縄人が理不尽な扱いを受けることに憤る、正義感の強い少年でした。
 樽金には、一度見た「手」をほぼ記憶する特異な才能がありました。父から「手」の基礎を習い、元服を迎えて興作を名乗ると、高名な泊の武士(ブサー)のもとで本格的な修行に入ります。
 伝説の武士・松村宗棍(まちむらそうこん)からも「手」の型を教わり、めきめきと腕を上げていった興作は、ある日、沖縄人に狼藉をはたらく薩摩藩士と対峙し、手ぬぐい一本で剣を打ち負かしてしまいます。
 これにより武士マチムラの名が世に広まりますが、薩摩の目を逃れるために、興作は放浪の旅を余儀なくされることになりました。
 やがて明治維新の荒波が沖縄を襲い、琉球王国がヤマトに消滅させられてしまいます。興作は若者に「手」を教えながら、反ヤマト派の活動を始めるのですが――。

 著者との親交が深い押井守(映画監督)が記した書評を、集英社のサイトから以下に引用しておきます。

・空手家・今野敏の面目躍如たる労作「武士マチムラ」 押井守
 作家・今野敏には、もうひとつの顔がある。
 とある席上で、空手道今野塾を主宰する空手家・今野敏を、「作家・今野敏が空手をしているのではない。空手家・今野敏が小説を書いているのだ」と評した高名な武道家もいたが、そのどちらが真相であるにせよ、今野敏が現代において文武両道を実践する稀有な存在であることだけは間違いない。
 「武士マチムラ」は警察小説の第一人者である今野敏が、その傍ら――というよりは、むしろその執筆活動の本流として書き継いできた、「武道家評伝シリーズ」とでも呼ぶべき作品群の最新の成果であり、沖縄においてすら忘れ去られつつある「手(ティー)」の歴史を綴った一連の作品としては「義珍の拳」「武士猿(ブサーザールー)」「チャンミーグヮー」に続く4作目ということになる。主人公である松茂良興作は前3作で描かれた富名腰義珍、本部朝基、喜屋武朝徳に較べるなら、その武道家としての生涯はけっして波乱に満ちたものではないかもしれないが、彼が生きた時代は沖縄に生きる人々にとっては、苦難の歴史そのものだった。琉球処分と廃藩置県による琉球王国の消滅、という沖縄の危機の時代に、武道家としていかに生きるべきか。それが本書において描かれた「武士マチムラ」こと松茂良興作の生涯の主題であり、そして本書のテーマでもある。
「この時代に手が何の役にたつのか?」
 松茂良興作は繰り返し自らに問い、弟子からもまた同じ問いを投げかけられる。沖縄の存立の危機は、そのままウチナーンチュとしてのアイデンティティーが問われることでもある。時代の行く末の見えぬ不安と苦難の時代に、武士(ブサー)として「手」に生きる意味とは何なのか。
「手に対する疑問のこたえは、手の中にしかない」
 だが稽古を続けることで、本当にその答えに到達することはあるのか――。
 その問い掛けは、実は現代において武道に生きる者すべての問いでもあるだろう。
 前3作でも繰り返し問われた主題であり、歴史に翻弄された沖縄という地で、伝統に生きた空手家たちに固有の主題でもあるのだが、本作におけるその問いはかつてないほどに深く、重い。それは執筆のための聞き取りに繰り返し沖縄を訪れ、理解を深めた結果であるだけでなく、沖縄に古老を訪ねては古流の型を学び、それを持ち帰って道場で実践してきた――謂わば「身体で沖縄を考えてきた」ことの帰結なのではないか、と思えてならない。
 今野敏という作家の、そして武道家・今野敏の沖縄への想いはそれほどに深い。
 現代において文武両道を追求して来た、今野敏という特異な作家の面目躍如たる労作であると同時に、沖縄をめぐる錯綜した言論に、武道家の立場から一石を投じた一篇として読者に強く推奨したい。
 最後に、冒頭で触れた「作家が空手を修めているのか、空手家が小説を嗜んでいるのか」という問いに関して一言。
 空手は、武道は人生であり、小説は生業である。その軽重を問うところではない――。
 今野敏に問うなら、そのように答えるのではないか。
(2019.6.25 読)

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