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   河出文庫  630円+税
   2020年6月20日 第1刷
   2020年10月30日 第4刷発行

 74歳、ひとり暮らしの桃子さん。
 おらの今は、こわいものなし。
 結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した桃子さん。
 身ひとつで上野駅に降り立ってから50年――住み込みのアルバイト、周造との出会いと結婚、2児の誕生と成長、そして夫の死。
「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」
 40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとり茶をすすり、ねずみの音に耳をすませるうちに、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧きあがる。
 捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。震えるような悲しみの果てに、桃子さんが辿り着いたものとは――。(出版社のHPから)

 青春小説の対極、玄冬小説(歳をとるのも悪くないと思えるような小説)の誕生! 新たな老いの境地を描いた感動作。――とのことです。
 著者は、1954年岩手県遠野市生まれ。岩手大学卒業。55歳で小説講座に通いはじめ、8年の時をかけて本作を執筆。2017年、本作で第54回文藝賞を史上最年長の63歳で受賞してデビュー。翌年、第158回芥川賞受賞。

 いいですねぇ、東北弁も。
 芥川賞選考委員の選評をいくつか、以下に拾っておきます。

「「おらおらでひとりいぐも」という作品の底に流れているのは、生きていることのぬくもりではないだろうか。そしてこのぬくもりは、作者がその人生を賭けて勝ち取ったものである。」(吉田修一)
「アメリカ南部のひなびた田舎町で聴いたブルースの掛け合いを思い出した。ファンキーで力強く、そして、どこか哀しい。もはやこれは東北弁であって東北弁ではないね。若竹節と言えるかも。野蛮で秀逸。」(山田詠美)
「74歳の女性の内面は、複雑な思弁に満ちていて、過去、現在、未来へと縦横に行き来するが、たぶんさほど多くはないであろう未来への向日性に富んでいる。このような深さは、やはりある程度の年齢を重ねてこなければ書けないもののようだ。」(宮本輝)
「従来の方言は、土地の力や霊異を宿していささか古めかしく発色したけれど、桃子さんの岩手弁は老いへの挑戦状であり、裡なる対立をエネルギーにして未来へと疾走する。自分の裡にある言語同士が鬩ぎ合い、状況によってどちらかが表面に出てくるという姿は、実は誰にでも日常的に起きている。多言語化は国際的な場だけでなく、個人の中の現象でもあることを発見させてくれた。」(高樹のぶ子)
「「おらおらでひとりいぐも」一本を推そうと決めて選考会に臨んだところ、選考委員のほぼ全員がこれに票を投じて、開始早々に受賞が決まった。本作はひとりの老女の内面の出来事を追うことに多くの頁が割かれて、彼女の記憶や思考を巡る思想のドラマが一篇の中核をなすのであるが、こうした「思弁」でもって小説を構成して強度を保つのは一般に難しい。ところがここではそれが見事に達成されている。」(奥泉光)
(2021.1.13 読)

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