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   ボーダーインク  1,700円+税
   2020年3月23日 第1刷発行

 コシマキには、「無いものねだりより、あるものに感謝する」と、大文字で。そして、「最後の秘境、西表島船浮出身のシンガーソングライター池田卓が、今だからこそ伝えたい想い。懐かしいけど新しい、たいへんだけど有難い、自然と共に生きる暮らし」とありました。
 船浮に戻っての暮らしの中で実践する「豊かな人生」とは。島からのメッセージを綴った、彼の初の単行本です。

 改めてまとめると池田卓は、1979年、西表島にある人口数十人、船でしか行けない船浮という小さな集落で生まれ育つ。学年が一人だった為、雨の日は楽器が友達替わりで、小学5年生から八重山民謡を習い始める。
 19歳の夏、島の芸能祭に参加したのをきっかけに本格的に音楽活動を開始し、2000年に「島の人よ」でCDデビュー。ベストアルバムや八重山民謡アルバムを含め、これまで11枚のCDを発表している。聴けば自然に涙が出るような、いい歌を歌うんだよねぇ。
 2007年より、故郷・船浮にて音楽イベント「船浮音祭り」を企画・プロデュース。2011年、10周年と父の還暦を機に里帰りし、実家の民宿「ふなうき荘」やツアーガイド、米や珈琲などを育てながら、船浮を拠点にライブ・祭り・イベントと全国で活動する傍ら、ラジオパーソナリティや講演活動、執筆、声優、俳優など、多方面で活躍中であるとのこと。

 幼い頃を西表島船浮で過ごした、家族や学校生活での心温まる思い出。甲子園に憧れて、島を離れてとびこんだ沖縄水産高校野球部の日々。一転して、那覇でシンガーソングライターとしてデビュー。
いくつもの夢を追いかけてきた池田卓は、デビュー10年を機に、念願だった故郷・船浮に戻ります。そして、帰郷してさらに10年。「島の宝探し」のなかで見つけた、現代社会で暮らす我々が忘れがちになっていた大切なことを、61編のエッセイとしてまとめています。

 第1章「不便が残してくれたもの」では、「無いものねだりより、あるものに感謝する」ことの大切さを、第2章「自然と共に」では、船浮の自然の豊饒さを、第3章では「船浮の生活」では今の生活を、第4章「8年ぶりの「こいのぼり」」では、卓セーネンが生まれてから今日までのエピソードを、それぞれ記しています。

 船浮というところは、「ここに行く」という強い信念を持たないと、旅人ではなかなかたどり着けない時間距離の遠いところですが、実際に行ってみると、いろいろな意味でものすごくいいところでした。でも、ここでずっと暮らせと言われたとしたら、生活利便性の面から、普通の人であれば考えてしまうかもしれません。でもこの場所は、彼にとっては故郷であり、かけがえのないところに違いありません。それはこの本を読むとよくわかります。
 誰にとっても、その人の故郷がどこであっても、人間にとって故郷とはきっとそういう場所なのでしょう。船浮に再度赴いて、活き活きとして暮らしている池田卓を垣間見てみたい気がします。
(2021.8.20 読)

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