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   新潮文庫  427円+税
   1981年10月25日 第1刷
   1993年4月15日 第21刷発行

 この晩夏にまとめ買いをした池波エッセイの4冊目。
 映画の試写を観終えて、銀座の〔資生堂パーラー〕に立ち寄り、はじめて洋食を口にした40年前を憶い出す。外神田界隈を歩いていて、ふと入った〔花ぶさ〕では、店の人の、長年変らぬ人情に感じ入る。時代小説の取材で三条木屋町を散策中、かねてきいていた〔松鮨〕に出くわす。
 洋食、鮨、蕎麦、どぜう鍋、馬刺から菓子にいたるまで、折々に見つけた店の味を書き留めた食味エッセイ。(カバー背表紙から)

 古い本で、1977年初出のものを1981年に文庫化したもの。この77年は、著者が54歳の頃になります(1990年、67歳で没)。
 鬼平の生みの親は稀代の食いしん坊で、神田のそば、目黒のとんかつ、京都の菓子……と、自身が愛した数々の店や場を思い出とともに綴っています。書かれた時代からだいぶ経っていて、その頃と現在の状況は大きく変わっていますが、池波節ともいえる粋な語り口調には、読者の心に沈み込んでくるような不思議な魅力があります。

 「食卓の情景」の続編といった位置づけの、全19編。食エッセイの古典であり、スタンダードとも呼べる名エッセイ集。料理、店の佇まい、店内の様子など、今となっては貴重と言ってもいいような写真も多数収録されています。

 佐藤隆介(池波の書生を10年務めた文筆家)による解説の一部を以下に引用しておきます。
 ここに綴られているのは、かつて人びとの暮らしの中にあれほど深く根づいていながら、激しい時代の流れの中でいつしか消滅しつつあるものの、ありし日の姿である。
 たとえば、「持続」という美徳。たとえば、商人道。たとえば、職人気質。
 本書の中に取り上げられているさまざまの店が、現在もそのまま、少しも変わることなく続いているという保証はどこにもない。すでになくなった店もあるかも知れないし、場所も構えも同じであっても、代が替わり、その味や雰囲気にかつての面影はまるでないという場合もあるだろう。
 ……私は愕然とする。淡々とした筆致で池波正太郎が書きのべているものは、すでに失われてしまった時代への挽歌に他ならないと、いまさらのように気付くからだ。

(2021.10.19 読)

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