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   ちくま文庫  950円+税
   2010年5月10日 第1刷発行

 司馬の「街道をゆく5 モンゴル紀行」の次に本棚から取り出したのは、「宮本常一が見た日本」。文庫は2010年間ですが、初出は2001年です。
 佐野眞一が著した宮本常一モノは、この2月に読んだ「旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三」(2009、初出は1996年)に次いで2冊目となります。1冊目は、宮本の物心両面にわたるパトロンとなった渋沢敬三との精神的交流を織り交ぜつつ、宮本の人と業績を追ったものでした。
 それ対して5年後に刊行されたこちらは、「旅する巨人」後に、紀伊半島最深部の僻村から日本海の絶海浮かぶ孤島まで足を運んで追加取材をする機会を得、宮本が訪ね歩いた村々、島々の風物に向けた10万点もの膨大な写真記録を見、遺族のはからいにより貴重な取材ノート類を閲覧して書かれたものとなっています。

 カバー背表紙の記述によれば、「日本人が忘れてしまった「日本」をその著作に刻みつづけた民俗学者、宮本常一。戦前から戦中、高度経済成長期からバブル前夜まで日本の津々浦々を歩き、人々の生活を記録、「旅する巨人」と呼ばれた宮本の足跡を求め、日本各地を取材。そのまなざしの行方と思想、行動の全容を綴った。宮本が作りあげ、そして失われた「精神の日本地図」をたどる異色ノンフィクション」というものです。

 著者は、もう少なくなってしまった当時を知る人と会いながら、宮本が数十年前に歩いた場所をなぞるようにしてたどっています。その場所を列挙すると、愛知県北設楽郡設楽町の名倉集落とその周辺、北海道天塩地方・サロベツ原野近くの間寒別・初山別・更岸、北海道の滝川近くの新十津川、新十津川の人々の母村である奈良県の秘境十津川村、宮本が30回以上足を運んだ佐渡島……。
 いつものようにこれら記載の場所の現況をグーグルマップで確認しながら読みます。したがって時間がかかります、幸いにしてそうする程度の時間は不足していないし、それによって理解はぐっと深まります。

 整理しておくとこの著書の初出は、2000年1月から3月までの間、12回にわたってNHK教育テレビで放送された「人間講座・宮本常一が見た日本」のテキストを大幅加筆した上、5つの章を新たに書き下ろして、2001年10月に日本放送出版協会から発行されたものです。
 そして、2010年発行のこの文庫版は、これに「宮本常一のメッセージ――周防大島郷土大学講義録」(みずのわ出版、2007)に収録された著者の講演を最終章に加える形で出来上がっています。
 宮本は晩年、「記憶されたものだけが、記録にとどめられる」との言葉を残していますが、著者はこの言葉を反転させ「記録されたものしか、記憶にとどめられない」として、ノンフィクションを書く際の座右の銘にしているといいます。
(2022.4.19 読)

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