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   新潮文庫  590円+税
   2009年1月1日 第1刷
   2010年2月25日 第6刷発行

 2017~18年、BSジャパンで放送された「知る食うロード~発見!食の景観~」は、野瀬泰申がナビゲートをして、全国各地で食されてきた素材や料理の物語・歴史を丸ごと「景観」として紹介するという趣向の番組で、毎週録画して楽しみにして視聴していたものでした。
 野瀬泰申(のせやすのぶ)は、1951年、福岡県久留米市出身の、日本経済新聞特別編集委員、コラムニスト。同一名称でも地域によって内容が違う食べ物(室蘭市、東松山市、今治市における「焼き鳥」など)、食べ物の地域性や独特な調理法・食べ方など、地域独特の食文化を「食の方言」と名づけて研究を重ねている人物です。
 その野瀬が2003年にまとめた「全日本「食の方言」地図」(日本経済新聞社刊)を改題し、全面的に改稿して2009年に文庫化されたものがこれです。

 あなたは天ぷらにソースをかけますか? 赤飯に甘納豆を入れますか? 「天かす」と呼びますか、「揚げ玉」ですか? お肉と言えばなんの肉ですか?――ネットで集めた厖大な情報分析は、驚きと発見の連続。実際に歩いて実証した東海道食文化の境界リポート付き。ちなみに和歌山県では80%以上がソース派、東京は10人に1人です。ニッポンは意外と広い!(カバー背表紙から)

 上記のほかにどんなお題を追究なされているかというと、「あなたはナメコの味噌汁が好きですか?」「ばら寿司(ちらし寿司)をよく食べますか?」「「ぜんざい」と「お汁粉」の呼び方どっちが優勢?」「唐辛子を「南蛮」と呼びますか?」「肉まんですか、豚まんですか?」「メロンパン? それともサンライズ?」「「いわゆる冷やし中華」にマヨネーズをつける?」「卵焼きは甘いですか?」「味噌汁にニラを入れますか?」「漬物を煮ますか?」「カレーそばは地元にありますか?」など。中にはええっ、そんなふうにして食べている地域もあるの?!と仰天するものも。そして、これらを都道府県別に調査して地図にプロットすると、予想どおりだったり、時には意外な結果が得られるなどして、いずれも興味深いものばかりでした。

 100ページほどある最終章は、「東海道における食文化の境界」について。神奈川のサンマーメン地帯、白ネギと青ネギ、静岡に広がるイルカ食、東海のモーニング文化圏、そばとうどん、米味噌と豆味噌、うなぎの開き方と蒸しの有無、そしてついでに灯油用ポリタンクの色などの境界線を、著者が実際に35日間かけて歩き、取材をして、明らかにしています。
 これを読む直前に、「野武士、西へ 二年間の散歩」(久住昌之著、集英社文庫、2016)を読んでいて、これも東京から大阪までを散歩によって踏破するというものでした。期せずして2度続けて東海道を西へと進む書物に触れたことになります。

 これだけ調査がしっかりしていれば、食文化に関する境界線に関しては、当著がしばらくは定説本となっていくことでしょう。
 「解説」で椎名誠は、「2003年に日本経済新聞社から出た「全日本「食の方言」地図」を感動して読んだ。まず発想がすばらしい。ネットで全国の最新情報を集める、という手法が的確で手ぎわいい。新聞記者らしく取材の足腰が軽快で、視点の先が徹底しているところがいい。「食の方言」というとらえかたのセンスがいい。「いいぞ」の連発だ。でも本当にそうだ、と思った」と記していました。
(2022.6.28 読)

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