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2022.11.29
掃除屋 プロレス始末伝 黒木あるじ

集英社文庫 660円+税
2019年7月25日 第1刷発行
「依頼を受け、相手をリング上で制裁する「掃除屋(クリーナー)」。ベテランレスラーのピューマ藤戸はそんな裏の顔を持つ。様々な事情を抱える依頼人から高額な報酬をせしめる背景には、リング禍で今なお意識が戻らない親友の存在があった。身体に爆弾を抱えた藤戸が、最後の対戦相手に選ぶのは──。プロレスファンなら感涙必至、そうでなくとも胸が熱くなる哀愁ただよう男の美学の物語。本当の強さが、ここにある。」(カバー背表紙から)――というもの。
著者の黒木あるじは、青森県弘前市生まれの東北芸術工科大学(山形市)卒で、池上冬樹が世話役をしている「小説家(ライター)になろう」講座出身の、山形市在住の怪談作家です。一方で、筋金入りのプロレスファンでもあるとのことのようです。
主人公のレスラーは、プロレスの試合の中で、試合には負けながら相手を出場不能ないしは引退へと導くダメージを負わせるという、現実的にはあまり考えられないようなことをやってのけるのですが、それが嘘臭くない程度のリアリティをもって語られています。
第3話「三巴(ザ・トリオ)」はなかなか読ませました。人間ドックを受けた病院で偶然再会した先輩の名レフェリー“トクさん”がいい味を出しています。
主人公が駆け出しの頃、トクさんに叱られながら教わったセリフが印象的です。「おい坊主、勘違いすんなよ。レスラーは“生きる覚悟”で闘うんだ。客は特攻隊や討ち死にを観に来てるんじゃない。善玉のがむしゃらさ、悪玉のしたたかさを見たいんだ。生きのびる難しさと、それでも生き抜く逞しさを見たいんだ。これだけは覚えておけ。試合を〈死合〉にするな。お互いの生き様をぶつけ合う〈志合〉に変えろ」
モデルは、全日本プロレスの和田京平だったでしょうか。読後に読んだ作家・関口尚による「解説」でも、そのように述べられていました。
プロレスは小説にするとどうなのだろうなと思っていましたが、読んでけっこう楽しめるものになっていました。110円で入手した古書としては値打ちあり過ぎです。
同著者のものに同じプロレス小説「葬儀屋 プロレス刺客伝」(集英社文庫、2020)もあるので、そちらもいずれ入手して読んでみることにします。
(2022.10.15 読)
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