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2022.12.01
民族の世界史7 インド世界の歴史像 辛島昇編

山川出版社 3,800円
1985年1月30日 第1刷発行
夏の暑さが退行して本を読むのにいい季節になったので、分厚い専門書に挑戦することにして、久しぶりに「民族の世界史」シリーズを取り出しました。今年6月末に第6巻まで読み終えて、3か月以上間が空いての、全15冊中の7冊目です。
編者は「まえがき」で、当書が「インド亜大陸の歴史過程の節々で重要な役割を果たした様々な「民族」について、その成立条件と歴史的役割の意味を明らかにする」ことを課題としており、「インド亜大陸に見られる共通の文化的特徴、個々の集団の持つ民族的特性、彼らの「われわれ意識」の発露、各集団と政治的統一体としての近代国家との間に存する矛盾と緊張関係などを描き出すために、できる限り特定の事例を取り上げてその本質をえぐりだす」よう心がけたと記しています。
「序章」では、インド亜大陸の言語グループとして大きくインド・アーリヤ、ドラヴィダ、オーストロ・アジア、シナ・チベットの4系統があるとし、各グループについて概説しています。そしてこれらの関係性として、インド亜大陸にはオーストロ・アジア系言語の基層があり、北インドではそこにシナ・チベット系の民族が移住し、混じり合って先住のオーストロ・アジア系諸語を吸収していくこと、さらにその後にアーリヤ系民族が進出してきたこと、その結果、イラン東部の高原からインド亜大陸に進出していたドラヴィダ系の民族はインド亜半島南部へと移動して残っていくこと、などについて説明されています。
こういうことはこの年齢になって初めて知ることで、ほほう、ははあと、半ば驚きながら読みました。
ヒンドゥー教とは何かということについて、「ヒンドゥー教は、特定の教義のうえに成り立つ固定した宗教ではなく、対立するものを包みこんでゆく一つの運動であるというほうが正しい」と記されており、なんだか雲をつかむような話になっていることに気持ちが引けました。
高校時代の世界史授業で聞いた気がするリグ・ヴェーダ、ブラーフマナ、ウパニシャド、アートマン、マハーバーラタ、バガヴァッド・ギーター、クリシュナ、シヴァ、ビシュヌ……といった用語が登場し、しばし懐かしさに浸ります。そんな固有名詞だけでも目まぐるしいのに、インド哲学の話になるともっと難解になり、辟易してしまうのでした。
カースト制度を概説するところで、インド国民の80%超が、ヴァイシャ(庶民)ではなく、不可触選民を除き最も下層に位置するシュードラ(隷属民)に属していることを知りました。
シュードラには、アーリヤ人によって征服された先住民の子孫の大部分が含まれているといい、歴史が進むにしたがって農耕・牧畜民がシュードラに加わってきたことによって、シュードラの地位はかつてほど低いものではなくなっているようです。また、カーストと職業との関係については、近代化が進むにつれて関連性が弱まってきているそうです。
インドの人々の暮らしのかたちを明らかにする第3章では、“もの”の文化の例として、インドの服装のサリー、カレー、村のかたち、住まいのかたち、土器などを取り上げて、それらの特徴や分布を外観しています。カレーについては、使う油が何種類かに分かれているため、その味は地域によって驚くほどに異なるのだそうです。
10世紀になると、インド亜大陸各地で独自の民族文化が成立し、それらは次の5地域に括ることができる。つねに外部からの新しい民族の進入路となった北西部、インド文化の中原ともいうべきガンジス・ジャムナー平原、北インドと南インドの文化の接点をなすマハーラーシュトラを擁する西部、ドラヴィダ民族の地として独自の文化を育んできた南部、文化的には遠く東南アジア方面にも繁りをもち近代においては先進的役割をはたした東部――なのだといいます。
インド亜大陸におけるイスラム社会についての項も。
イスラム教の場合、超自然力は唯一神アッラーの専有するところとなっていて、絶対的な神の力の前では人間は全く無力な存在でしかないと考えられています。また、個々人は万能の神の恣意によって独自の資質・独立の運命をもってつくられると考えるため、親と子の関係や祖先と子孫との間の連続性などは否定され、したがって「個人の分を覚る」といったような概念は強くないのだそうです。そして、神の意志を推し量れない無力な人間は、過去と現在の出来事の因果関係を失って、現在中心主義・刹那主義的になっていくのだと。
後半では、イギリス統治のもたらしたもの、ガンディーとネルーという一見対極にある政治家を生み出したインドの政治的・精神的風土の問題、近代ヒンディー語の散文体の確立や、インド近代絵画に関する記述など。
そのようなことについてはこれまで一度も考えたこともなく何も知らないので、用語や地図を確認しながらたっぷりと時間をかけ、まさに未知の扉を開くような心境で読みました。
(2022.10.23 読)
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