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   NHK出版  1,400円+税
   2009年7月30日 第1刷発行

 「汽車旅放浪記」(2006)、「中年シングル生活」(1997)に続く、自分にとって関川夏央の3冊目。
 文庫本で買ったとばかり思っていましたが、届いたのはサイズの大きい単行本。単行本は重くて好きではないのですが、中身は同じなわけだし、わずか200円で買えたのだからよしとしておきましょう。

 「昭和の残照をもとめて。寝台列車やローカル線、路面電車がいざなう懐かしい場所、過ぎ去った時代――。汽車旅ならではの愉悦と日本近代化の立役者・鉄道の光と影を綴った「鉄路」随筆名品集。」(コシマキから)
 たんに汽車(電車やディーゼル車など含めて、鉄道車一般を著者はこう呼ぶ)に乗り、日本の地方色を車窓と車内風景に見物するのが好きだという著者。長らく隠れキリシタンのような鉄道好きでしたが、2006年に「汽車旅放浪記」で世間にカミングアウトしたという経歴を持っています。
 その「汽車旅放浪記」の前後に書いた稿を集めて一冊にまとめたものが当著で、鉄道マニアであることに妙な羞恥心を持ちながらこれを世に問うた、ということのようです。
 巻末には初出時の経過がまとめられていて、これによって、2004年から09年にわたって小説雑誌、旅行誌、タウン誌などに掲載されたもののほか、1編の書下ろしを加えて出版されたことがわかります。

 第1章は、月刊文芸誌「現代」に掲載された3編に、この著作をまとめるに当たって書き下ろした汽車旅エッセイ。
 第2章には、スペイン、アンデス、台湾などの鉄道旅行記があるほか、鉄道紀行文学のジャンルをひらいた宮脇俊三に関する考察的エッセイもいくつか並んでいます。
 第3章に入ると、鉄道乗車旅の際に見聞きしたり感じたりしたことなどをモチーフにしたショートエッセイが9編。列車を乗り継いで樺太に行こうとした宮沢賢治のこと、1971年の宿願の全通時に只見線に乗った宮脇俊三のこと、1958年に特急「こだま」の運転台に同乗した幸田文のこと、ちんちん電車といわれた市街電車(のちの都電)の開業以来の客だった獅子文六のことなどが記されています。
 第4章は、ローカル線で関東平野をできるだけ大きく一周してみようと思いたって出かけた「関東平野ひとめぐり」、本州の西の終着駅として活況を呈していた頃の下関に足を運び、駅から遠くないバーに入って往時を偲びながら南極観測船が運んできた2万年前の氷が入ったウイスキーを舐める「下関に見る近代日本の全盛期」、夏目漱石の「草枕」に出てくる熊本小天(おあま)温泉にある風呂場を見るだけのために熊本行寝台特急「はやぶさ」に乗る「はやぶさに乗ってみた」など、4編。

 楽しめた1冊でした。
(2022.12.26 読)

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