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   文春文庫  438円+税
   1997年7月10日 新装版第1刷発行

 「ペリー来航以来、開国か攘夷か、佐幕か倒幕かをめぐって、わが国の朝野は最悪の政治的混乱に陥ってゆく。
 文久2年、将軍後見職として華々しく政界に登場したのちの15代将軍・徳川慶喜は、優れた行動力と明晰な頭脳をもって、敵味方から恐れと期待を一身に受けながら、抗しがたい時勢にみずから幕府を葬り去った。」(カバー裏表紙から)

 徳川歴代将軍のなかで、最も有能で、多才で、最も雄弁で、よく先の見えた人物でありながら、「最後の将軍」として人生を終えた慶喜の悲劇を描いた、新装版です。

 この本、面白い。
 徳川時代末期や最後の将軍のことについては、高校までに正史として学んでいるだけで、当時の世情や時代を動かした人物たちのパーソナリティなどについては、知らないことばかりです。それを司馬遼太郎は、その時代に行き、傍で見てきたかのように描写してくれるのです。

 たとえば、安政の大獄を行った大老・井伊直弼については、慶喜が「断あれども、智には乏し」と評し、司馬は「肥満した巨頭と、それとまったくうらはらなほどにするどく吊りあがった両眼、大名というよりは漁村の大網元といった風貌」「老猫が媚を呈するかのような笑み」と描写しています。どうです、ユニークでしょ。
 彼の「街道をゆく」シリーズも面白く、司馬の著作は主としてエッセイ的なものを読んできましたが、幕末から明治時代頃にかけての特定の人物を中心に据えて書かれる小説もすごく面白いと思いまし。未読の司馬小説はまだまだたくさんあり、それらをこれから読めるのかと思うとワクワクしてきます。

 ためになるいい作品でもありました。
 徳川慶喜に関する記述では、大政奉還から王政復古の大号令で徳川幕府が終焉する場面についても、生々しく書かれています。知りませんでしたが、大政奉還のそもそもの立案者は坂本龍馬で、その案を上申してきたのは同じ土佐藩士の後藤象二郎だったということです。知らないことのみ多かりき。
 こうなると、老後の楽しみにとずっと先送りしてきていた「竜馬がゆく」も、早く読んでみたくなりました。

(2023.8.6 読)

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