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   インパクト出版会  1,800円+税
   2018年4月28日 第1刷発行

 琉球王朝時代の士族の一家は、「琉球処分」で沖縄島北部のヤンバルの地で生きることになった。沖縄戦と戦後の米軍基地拡張による八重山移民と歴史に翻弄されながらも希望を失わなかったカミちゃんの人生を、新鮮な手法で鮮やかに描いた画期的な作品登場!(コシマキから)

 表題は、子どもたちのマラリアを看病するうちに母親のカミちゃんまでもが高熱を発し、疲れと苦痛で絶望的な気分に侵されたときに聞こえてきた、天国にいる母ウシの声。
 「ヌチヤ ティンカイニ アインドー。ヤーガドゥ、ナラーチェーサニ。アリ、ヌチカジリイキレー。」(命の定めは天にあるんだよ、勝手に命を捨ててはいけないよ。あんたが、私に教えたんじゃないか。今ここで死んだら、一番の親不孝者になるよ。命の燃え尽きるまで生きるんだよ)

 沖縄タイムスの書評を以下に引用して紹介に代えます。

・近代沖縄、庶民女性の姿  2018年6月30日 
 琉球国の終焉から説き起こされる一家の物語である。主人公は一人の女性。激しい波に翻弄されて生きた沖縄の庶民女性の姿がここにある。作者はその庶民の人生を温かいまなざしで見つめ、豊かな物語を紡ぎ出した。沖縄文学の特徴の一つに「時代状況に倫理的である」ことを挙げる作者が、時代の大波にもみしだかれながらも希望を失うことなく、野の花のように力強く、そしてまっとうに生きた人々への共感をもとに生み出した一作である。

 屋取(ヤードゥイ)人となってヤンバルに下った首里士族の4代目の子孫として、主人公は大正5年に生まれた。沖縄の娘として普通に育ち、戦争時代の女として軍人に嫁ぐ。しかし、戦争の時代は彼女の生活を巻き込みさいなんでいく。一家の希望でもあり柱とも頼んだ兄一家の台中丸沈没による遭難死。この悲劇によって主人公の母は発狂寸前に追い込まれる。そして沖縄戦。しかし、主人公の苦難の歩みはこれで終わりではなかった。人にだまされ有り金を失い、石垣島明石での開拓生活に入っていく。その苦難はマラリアのために死境をさまよう子供たちと主人公の姿に極まる。その苦難を乗り越えての再生。
 琉球国の消滅・十五年戦争・沖縄戦という琉球・沖縄の近代の歴史が、主人公の家とその身体の上を音を立てて流れていく。作者の眼はその強暴な歴史の奔流を見逃さない。それがいかにして人々の生活を狂わせ、破壊するかを描き出している。主人公カミちゃんの人生は、近代沖縄の歴史がもたらした婦人の人生の一つの典型であった。
 作者は前著「奪われた物語-大兼久の戦争犠牲者たち」の縁によって、この作品の主人公と出会い、その人生に引き込まれた。そこから作者が描き出そうとしたのは、歴史に翻弄されながらも力強く生きた近代沖縄の庶民の物語に他ならない。そしてこれを未来の沖縄を背負う世代に伝えようとしている。少年・少女にこそ手渡したい1冊である。
(波照間永吉・沖縄県立芸術大学名誉教授)

(2020年1月1日 読)

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