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   新潮文庫  590円+税
   1990年9月25日 第1刷
   2011年11月15日 第60刷発行

 浮気に腹を立てて実家に帰ってしまった女房を連れ戻そうと思いながら、また別の女に走ってしまう小間物屋。
 大酒飲みの父親の借金を、身売りして返済しようとする10歳の娘。
 女房としっくりいかず、はかない望みを抱いて20年ぶりに元の恋人に会うが、幻滅だけを感じてしまう油屋。
 一見平穏に暮らす人々の心に、起こっては消える小さな波紋、微妙な気持の揺れをしみじみ描く連作長編。
 鼬の道、猫、朧夜など全部で12編の物語が綴られています。

 巻末には「藤沢文学の原風景」と題して、藤沢周平と藤田昌司による対談が収録されています。その一部を以下に抜粋。

藤田昌司 強い人間ではなくて弱い人間、孤独な人間、時にはだらしない人間、そうした人間にシンパシーを感じる、そういうところが藤沢文学の大きな魅力になっていると思います。(略)
藤沢周平 さっき小説で救われたといいましたけれども、それは傷口がふさがったということで、傷跡もなにもなくなって万歳というわけではないのです。そういう気持が弱者に向かわせるのではないかと思うのです。何か救いがあるのだということを、自分も含めて信じたいですね。そういうものを書きたいです。

(2020.8.22 読)

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